
「いまさら不可能だ!」
ビオリーブス工房の中で、技術顧問のメンゴーリ博士の声が響きます。
「いや、正確には可能だが、コスト面はどう考えても不可能だ・・」
少し間を置いて、努めて冷静を装うように彼がそう言い直すと、私を含めこの件で立ち会った全員が、深い溜息とともに押し黙ったままになってしまいました。
欧州の一般的化粧品基準でもある未開封36ヶ月の保存保証を前提に、合成の防腐剤を排除することが可能であることは、今までの研究でもある程度は分かってはいました。
ミントなどのエッセンシャルオイルをかなりの量を添加することで、防腐剤の役目を担わせることは可能なのです。
が、安価な合成エッセンシャルオイルを使っては意味がありませんし、かといって私達組合のエッセンシャルオイルは極めて高コストで、これを製品の保存に耐え得る量まで添加すれば、著名な高級パフューム並の価格になることは避けられません。高級パフュームだって、合成品のエッセンシャルオイル使用が殆どですが・・・。
コストの分かりやすい例として、日本でも当方品質に近いエッセンシャルオイルは小瓶で売られているようですが、近いと言えども、2mlや5ml容器で、数千円から数万円!するものまであるようです。事実高価なのです。
追い討ちをかけるように、標準洗剤に対し、必要な合計添加エッセンシャルオイルは1%、つまり500ml容器なら、5ml!の量が必要という配合計算が出されました。
それでなくとも、エッセンシャルオイル以外に使用される様々な有機原料は、その時点で想定販売価格に対し既にギリギリのコストに達していました。
もうこの時点で「価格を大幅に上げるか、合成保存料を入れるか」どちらかの選択しか逃げ道はないと諦めていました。
どちらかが無理なら、販売の断念を早期に決断しなければなりませんでした。 つづく

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